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【東京ゲームショウ2024】今年はスマートフォンゲームコーナーにも初出展
生成AIをゲーム開発に活用する流れは、年々加速しています。ゲーム業界におけるAIの市場規模は、2028年に48億4,000万米ドルの規模に達するという予測もあります。(※)
2024年8月に開催されたCEDEC2024において、「生成AIを活用したゲーム開発効率化」と題したセッションが行われました。このセッションでは、株式会社ドリコムの國安氏、AIQVE ONE株式会社の松木氏の登壇の後、AIQVE ONEの熊野氏を交えてパネルディスカッションが実施されました。この記事では「生成AIを活用したゲーム開発効率化」の講演内容をお届けいたします。
最初に、株式会社ドリコム AI部部長の國安雄氏が登壇。
冒頭にて國安氏は、ゲーム開発運用における生成系AIの可能性について語りました。
様々なレポートをまとめたものによると、ゲーム開発運用においては、8割の作業がAIにて代替可能で、残りの2割は代替不可能だということです。これを聞くと仕事がなくなると思われるかもしれませんが、実際、我々が注力すべきはこの2割のクリエイティブな部分であり、この領域に集中できていないことが問題であること、そしてその2割にリソースを集中させることが重要だと強調しました。
続いて、生成AIプロダクトの動画生成事例を挙げながら、実際のゲーム開発現場でのギャップと運用上の困難について言及しました。
複数の会社でAIコンサルタントの経験を持つ國安氏は、実際の現場ではAIをうまく活用できない例を見てきているとのこと。一般的に、AIは9割くらいがPOC(Proof of Concept :実証実験)で終わるとも言われているそうです。そこで、現場でAIをどのように“堅実に”活用するのかが鍵であることを強調していました。
また國安氏は、現状AIはデータを通じてしか学ばないため、適切なデータを学習させる必要があることを主張。
良いデータセットの条件として、以下の3つを挙げていました。
・適切な範囲のデータ 一つのゲームやコンテンツに閉じた情報
・重複なくノイズなく 重複/ノイズがあると誤った情報を出力しやすい
・複数の視点データ 同じコンテンツを違う言語、違う文脈で表現する
また近年では、プロジェクトが大規模化し、各々様々な役割を担うメンバーがチームとして進行するため、これがゲーム開発における生成AIの活用において新たな課題を生んでいることにも言及しました。
そのソリューションとなるのが、同社が試行錯誤を続けて開発した、「ai and(アイアンド)」というプロダクトです。
「CEDEC2024」と同日に発表されたこのプロダクトは、現場で開発者が利用できる“堅実なAI”のインターフェースを提供しており、単なるツールではなく、データの収集プロセスまでを包括的にサポートするものとなっています。
「ai and」の特徴として以下の6つを挙げていました。
・すぐに利用できるプロダクトが6つある
チャット、シナリオ、翻訳、インサイト、QA、カスタマーサポートの6つのプロダクトがすぐに利用できます。クリエイティビティを邪魔するのではなく、ルーティンの部分をサポートするAIとなっており、プロダクトの種類は今後増える可能性もあるそうです。
・工数削減効果を見込める
同社で実施した結果、工数削減効果を見込めているそうです。
・AIが勝手に賢くなる
AIはユーザーのクリエイティブな修正を学習することで、より優れた結果を生むよう進化します。
・データが自動的に連携される
6つのプロダクトのデータが自動連携され、複数の役割の作業が1つのプラットフォームで可能になります。
・AIがコミュニケーションをサポート
異なる役割のメンバーと同じデータをリアルタイムで共有することが可能になります。たとえば、カスタマーサポートが受けたユーザーの要望をQAに落とし込むなど、データの横の繋がりができます。
・使えば使うほどIP/コンテンツ独自の表現が育つプラットフォーム
冒頭で、良いデータセットの条件として「適切な範囲のデータ」を挙げましたが、使えば使うほど、そのIP、コンテンツ独自の表現が育つプラットフォームとなっています。
このあと、実際の画面を見ながらの解説がありました。
最後に、なぜ同社が「ai and」を開発したのかについても言及。ドリコムは長い間モバイルゲームの開発・運営を中心とした企業でしたが、今後中長期的にはエンターテインメント・コンテンツ企業として、IP(知的財産)とテクノロジーの融合を軸に、エンターテインメント・コンテンツの提供することを目指しているとのこと。この戦略の一環として「ai and」が開発されたそうです。
國安氏は、今秋リリース予定の「ai and」にぜひご期待いただき、お問い合わせいただきたいと述べ、セッションを締めくくりました。
「ai and」公式サイト:https://www.aiand.info/
続いて、AIQVE ONE株式会社 取締役CTOの松木氏のセッションに移りました。
松木氏は冒頭で、「AIは人間の仕事を奪うものではなくクリエイティビティをより最大化するためのもの」という國安氏の思想に共感し、「ゲームのQAをより高度に、より迅速にし、クリエイターの挑戦の機会を増やす」という同社のゲームテスティングソリューション『Playable!』のコンセプトについて説明。さらに、ゲーム開発は大きく分けると設計とテストしかなく、QAは開発のかなりの部分を占める生産技術であることを強調しました。
つまり、これまではゲーム開発の終盤で何かやりたいことがあっても、テストが間に合わないから実現できないということが多々ありましたが、もしテストが一瞬で返ってくれば1日に何度も試すことが可能になるということです。
次に、Playable!のシリーズの一つである『Playable! General Agent』 の開発経緯についての話がありました。まず、我々も含め多くの日本のゲームデバッグやゲームQAは、海外のQA技術者と比べ20年ほど遅れているという現状を説明。海外のQA技術者は、プレイテストの傍ら、ボットを開発し、役割を与えてそのログを解析するというアプローチをとっているとのこと。そのため圧倒的な効率が出るのですが、それをそのまま日本に持ってくることは難しいと松木氏は言います。ゲーム以外の業界でも言えることですが、テストやQAに従事する人のバックグラウンドにコンピューターサイエンスやプログラミングのスキルがないことが多いためです。
そこで、いきなりプログラミングをするのではなく、自然言語で指示を出せるGeneral Agent(汎用エージェント)を開発しました。
昨年の夏に発表したPlayable!General Agentは、タイトルごとにステートマシンを実装する必要があり、導入ハードルが高いなどの課題がありました。また昨年までは、家庭用コンソールの3D ゲーム向けに作っていましたが、東京ゲームショウやCEDECで発表したところ、2Dゲームやモバイルで使えないかという問い合わせを多数いただいたことに言及。
そこで、モバイルに対応し、さらに導入ハードルを下げたのが、今回発表する『Playable! General Agent for Mobile』です。
現状はUnityのみの対応となりますが、プラグインを導入する手順とほぼ同じで、わずか3クリック程度で導入することができます。
3D空間の場合と違い、モバイルゲームでは、探索する範囲が平野や崖や山ではなく画面遷移となります。実際の商用製品においても機能するかを確認するため、株式会社ドリコムと連携し、同社が配信するモバイルゲーム『魔界戦記ディスガイアRPG ~最凶魔王決定戦!~』でのテストを行いました。同作は絶賛配信中で、画面上には多くのボタンや文字が存在しますが、これを生成AIやLLM(大規模言語モデル)などの技術で認識させ、自動操作を実現しました。チュートリアルの突破やリグレッションテストの自動化にも成功しています。松木氏は、この成功により他の多くの作品でも同様の成果が期待できる自信を深めたそうです。
これは「ai and」のラインナップの1つ(QA)に入っているので、ぜひ「ai and」を通じて試してほしいと述べました。
松木氏はGeneral Agentの利点として、これまでのデバッグやテストではゲーム機と人が1対1だったのが、1対100、すなわち1人の指揮者が100台のインスタンスに対して一斉に指示を出せる「超並列テスト」が可能になる点を強調しました。これにより、冒頭で述べたような、テスト結果を従来の手動テストに比べて圧倒的に早く得られる未来が現実のものとなります。
課題としては、LLMの操作の試行錯誤や、UIの操作における技術的な問題、LLMコストの最適化が依然として残っていますが、解決の見通しは立っているそうです。
そして「AIはやるかやらないかではなく、どう共存するかという新しい時代に突入している。だからこそ、ぜひ私たちと共にトップランナーとしてこの挑戦を進めていただければ嬉しい」と語りました。
最後に、Playable!が描くQAの未来について、これまでの1対1の戦いも重要ではあるが、今後は遠隔や広域で戦闘が可能になる“魔法使い”がパーティに加わるイメージだとRPGゲームになぞらえて解説。小回りが効かないことやMP(マシンリソース)を消費するという弱点もあるが、「得手不得手を見極めながら、勇者として適切に指示を出してほしい」と述べてセッションを締めくくりました。
続いて、モデレーターのAIQVE ONE株式会社 QA本部 エンタメQA部 セクションマネージャーの熊野氏を交え、パネルディスカッションが行われました。
まず國安氏から、with AIと言われる時代に、人を多く動員するQA業界がどう変化していくのかという質問が。
松木氏は、ゲームデバッグのエンジニアは自分で考えて現場対応することが基本と説明。その上で、お客様から言われたこと、定型的な作業だけを行う人は減少するだろうという見解を述べました。続けて、QAの仕事の本質とは、「どこまでテストすれば良いのか」「テストをどう自動化するか」だけでなく、ユーザーが本当に望むものやデザイナーが表現したかったものを考え抜くことまで含まれると述べ、だからこそ、このような深い理解を持って取り組む人々の役割は今後も残るべきだと語りました。國安氏もそれに同意し、ユーザーへ価値提供することが重要だと強調し、デバッガーの仕事も単なる作業からより創造的な方向にシフトしていくのではないかとの見解が述べられました。
松木氏も、クリエイティビティを発揮してエンドユーザーやプレイヤーに喜んでもらうための魅力的な仕掛けや質の向上は、しっかり寝て休息を取らなければ成り立たないと述べ、そのためにAIがサポート役として、より効率的に働ける環境を提供することが重要ではないかと提案しています。
熊野氏からは、実際のテスト現場の観点からの話がありました。テスト設計では常に「どのテストをすべきか」を考え、多くのアイデアが浮かぶものの、手動で実施するには時間やコストが不足しがちであるという現状を説明。AIを活用することで、これまで省略していた部分にも対応でき、より多くのテストが可能になり、結果として人はより質の高いテストの設計に集中できるようになると、AIの可能性を語りました。
次に、國安氏と松木氏が異業界からの知見を持ち寄り、AI活用の現状と課題について語りました。通信や業務システムの分野でAIの利用が進む一方で、ゲーム業界でもAIがどのように貢献できるかが議論されました。どの業界においてもAIによる単体テストやドキュメントレビューの自動化は進展していますが、依然として人間による監修が重要だという意見が共通していました。AIが自動で学習し改善するプロセスも含め、人とAIが協力して価値を生み出すことの重要性が強調されました。
続いて、データの質と管理の重要性についての議論が展開されました。
國安氏は、AI導入においてデータの質が鍵であり、コンテンツの質を高めるには独自のデータ蓄積が必要だと述べました。松木氏も同意し、ゲームデザインの文書化が不可欠であり、コアメカニクスや楽しさのポイントを文書化しアクセス可能にすることが重要だと指摘しました。國安氏は、データは使いやすい形式で、慣れ親しんだUI/UXの提供が重要と強調しました。
さらに熊野氏からは、蓄積しつづけるデータの管理が課題として挙げられました。國安氏は、重要なのは自動でデータを集める仕組みを作り、適切なフォーマットで管理することだと強調しました。
松木氏は、常に最新データを参照させるためのドキュメント管理の必要性を強調し、國安氏もAIが正しいデータを学習・修正できる仕組みの重要性に言及。適切なデータ管理と活用がAI成功の鍵だという意見で一致しました。
最後に「AIが人間の入力に基づいて学習するプロセスについて、技術的に『フューショットプロンプティング』かどうか」という来場者からの質問に対し、國安氏は、基本的にはラグが中心の技術であり、技術的な差はそれほど大きくなく、重要なのはUI/UXがユーザーにとっての価値に繋がる点だと回答しました。松木氏も、データの重要性と、それをAIにどう教えるかが鍵だと改めて強調し、セッションは締めくくられました。
セッションの全容は、こちらからご覧いただけます。
「ai and」の詳細・お問合せ :https://www.aiand.info/
Playable!の詳細・お問合せ :https://playable.qa/
(※)参照:ゲームにおける人工知能(AI)の世界市場レポート 2024
https://www.gii.co.jp/report/tbrc1436319-generative-ai-global-market-report.html
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